人のあれこれ

釣銭へのこだわり

20年前のタイ、バンコク。BTSもなければ、歩きながらスマホを操る人もいなかった。携帯電話よりも、パックリンと呼ばれるポケットベルが主流で、電話はアパートの内線電話で受ける。スターバックスの様な喫茶店は少なく、コーヒーといえばネスカフェが出てくる。インターネットカフェなどない。空港はまだドンムアンしかなく、スクンビットから路線バスを乗り継いで行くこともできた。

たかが20年。されど20年なのかもしれない。クーデータ―も2度ほど経験している。この20年間のタイの変わりようを書けばきりが無い。しかし、タイが豊かになったのは事実である。それを一番実感するのが紙幣だ。

20年前、飲食店をはじめた当時一番吃驚したのが紙幣の汚さだった。特に20バーツ札はぼろ雑巾のような紙幣が普通に流通していた。50バーツ、100バーツも使い込まれた紙幣が多い。せめて自分の店は、釣銭の紙幣に新札を使おう。創業と同時にそう決めた。

ただ、新札を用意するのは日本ほど簡単ではない。銀行との付き合いが大事になってくる。取引銀行はひとつにまとめ、それなりの心付けや、付き合いを欠かさないようにした。そのことは、ゆくゆく会社の与信にもつながり、融資を受ける際にも有利に働いた。たかだか釣銭用の紙幣に新札を使うこだわり。それが会社の成長を支えたのだ。

そして20年経った今でも続けている。「10年偉大なり。20年恐るべし、30年にして歴史になる」イエローハットの創業者、鍵山秀三郎氏の言葉だ。どんな些細な事でも、続けることは意義があると思う。まさに継続は力なりだ。

なかむら じょういち
居酒屋「寅次郎」店主。
店舗経営の傍ら、ライターとしても活躍中

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